周囲に言えない秘密や趣味、誰にも教えていない預金口座や現金、借金、不動産…。 日本には「知らぬが仏」という言葉がある通り、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。
死後に起こりうるトラブルを避けられるよう、このブログ・テーマでは「他人名義の株式の処理方法」「妻に教えていない借金の扱い方」「愛人や隠し子などへの対応」など、それぞれの隠しごと別に考え方や対処法を、これまでの実務経験を踏まえながら具体例を挙げながら解説します。
日ごろから大きなお金を扱うことが多いだけに、社長の中には借金を抱えている人が少なくありません。
金融機関から事業用の融資を受けるのはごく普通のことですが、それ以外でも個人的に借金を抱えており、しかも家族には隠しているケースがよく見受けられます。
資金を借り受けることになった事情は、事業で手元の資金が足りなくなった時や女性関係、お金のかかる楽しみのなどさまざまです。
「男同士の付き合い」ということで表沙汰にせず、家族や従業員に知らせないことも珍しくありません。
相続の際には、そういった借金も表に出てきます。
「いつかは返してもらえる」と考えていた債権者が、これを機会に返済してもらおうと連絡してくるためです。
私が知る中にも、「四十九日の法要に亡き社長の友人が借用書を持って現れた」という事例があります。
知らされていない家族にとっては寝耳に水でしょう。
悲しみに沈む中、いきなり借用書を見せられ返済を迫られるのは大きな苦痛です。
兄弟など親族に借りているケースでもトラブルにつながります。
血縁関係があるだけに、きちんとした借用書を作っていないことも多く、「本当にそんな借金があるの?」と家族が疑いを持つと、いっきに関係がギクシャクしてしまいます。
また、そういった気持ちの面だけでなく、お金の面でも隠されていた借金は大きな悩みの元です。
家族は返済する資金の手当てを考えなければいけません。
中には社長が「俺が死んだら生命保険金から返す」といった約束を交わしているケースもあります。
現在では親族以外が受取人になることはできませんので、保険金で直接返済はできませんが、債権者としてはその約束を盾に金銭を請求してくるでしょう。
内容によっては示談金が必要となりますので、その金額が相続の割合や妻の生活資金などにも影響し、今後の資金計画がすべて壊れることになり、遺族は大混乱します。
一方、家族に隠している貸付もやはり面倒の元です。
「男同士の付き合い」ということで社長が家族に知らせていない貸付は、借り手も家族には言えない資金であることが往々にしてあります。
そういった事情を知らない社長の妻がうっかり相手の家族に伝えてしまうと、貸し付けた相手とその家族の間で思わぬトラブルが発生するかもしれません。
せっかくお金を貸して助けた相手から、「友だちがいのないやつ!」などと思われてしまうのでは、生前の行いがまったく意味のないものになってしまいます。
社長の妻にとっても、こっそり残された貸付は扱いに困るものです。回収するためには取り立てが必要ですが、「借金を返してほしい」と伝えるのは嫌なものです。
特に兄弟姉妹などの親族間であれば感情がもつれ合い「争族」に発展する危険性があります。