周囲に言えない秘密や趣味、誰にも教えていない預金口座や現金、借金、不動産…。 日本には「知らぬが仏」という言葉がある通り、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。
死後に起こりうるトラブルを避けられるよう、このブログ・テーマでは「他人名義の株式の処理方法」「妻に教えていない借金の扱い方」「愛人や隠し子などへの対応」など、それぞれの隠しごと別に考え方や対処法を、これまでの実務経験を踏まえながら具体例を挙げながら解説します。
さまざまなケースがありますが、社長たちが秘密を隠すためにつぎ込む労力は、事業に要するものと遜色がないように見えることすらあります。
ところが、何の対策もせずに相続を迎えたら、精魂を傾けて守ってきた秘密が白日の下にさらされてしまうのです。
これまでの努力もまったく無意味なものとなってしまいます。
まず、相続の際には相続税の申告をするため、財産のすべてを明らかにする必要があります。
これにより、計らずとも対策なしの隠しごとが納税という大義の下に露呈してしまうかもしれません。
また、遺言がない場合は「遺産の分け方について法定相続人の全員が納得した」ということを示す書面――「遺産分割協議書」を作ることになります。
これを作るためには、相続財産のすべてを明らかにするとともに、相続の権利を持つ人〝全員〟の署名捺印が要るため、たとえば、もし隠し子がいるなら、その存在を妻も含め他の相続人全員が知ることになるのです。
相続時まで何も知らないとしたら、家族にとっては大きな衝撃です。
隠し子がいたという事実にはもちろん、それ以上に今まで夫が、父親がそのことを隠してきたことに驚き、あきれることでしょう。
それまで培ってきた愛情が、いっきに冷めてしまうことになりかねないのです。
その他にも隠し財産や借金、人には明かしたくない趣味嗜好なども、対策を打たなければ死後には家族はもちろん、親戚や友人あるいは地域の人たちにまで知られてしまいかねません。
多くの社長は地域や業界で尊敬を集め、地位を築いてきた方です。
「自分はもういないのだからかまわない」と開き直るのは難しいでしょう。
また、せっかく築きあげてきた名誉を傷つけるのは、とてももったいないことだと思います。
また、秘密の種類によっては、遺された妻や子供たちなど家族が世間から後ろ指をさされて気恥ずかしい思いをするかもしれません。
ですから、ある一定の年齢になったら人生を一度総括し、「隠しごと」をどう処理するかを考える必要があります。
放置していると事業承継より大きな問題となって自身の名誉や家族の心を傷つけてしまうことでしょう。