周囲に言えない秘密や趣味、誰にも教えていない預金口座や現金、借金、不動産…。 日本には「知らぬが仏」という言葉がある通り、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。
死後に起こりうるトラブルを避けられるよう、このブログ・テーマでは「他人名義の株式の処理方法」「妻に教えていない借金の扱い方」「愛人や隠し子などへの対応」など、それぞれの隠しごと別に考え方や対処法を、これまでの実務経験を踏まえながら具体例を挙げながら解説します。
「隠し子」――その名の通り、妻などに隠している愛人や以前、交際していた女性の子供です。
隠し子には父親が生前に認知しているケースとそうでないケースがあります。
認知している子供は戸籍を見るとわかるため、相続が発生した時にその存在が明らかになります。
認知するかどうかは基本的には父親である社長の意志一つです。
父親の愛情に触れる機会が少ないだけにきちんと認知してあげてほしいところですが、中には認知せずうやむやにするのが得策と考えている人もいます。
以前はそれで通ることもあったのかもしれませんが、近年はそれでは済まされません。
隠し子の側に「死後に認知訴訟を起こす」という切り札があるためです。
訴訟になればDNA鑑定が行われます。
親族の血液鑑定やさまざまな事実関係等を勘案して、隠し子と父子関係にあるかどうかが調べられるのです。
その結果として生物学上の父子関係が認められれば、裁判所により「死後認知」という手続きがとられ、社長や妻の意志とは関係なく法的にも親子とされます。
もちろん晴れて「子」になった隠し子には財産を相続する権利が発生しますし、遺留分も認められます。
遺留分というのは「遺言書にどう書いてあっても確保される相続人の取り分」です。
たとえば妻とその子供2人、さらに隠し子1人が相続人なら、隠し子の法定相続分は6分の1、遺留分は12分の1となります。
社長が遺言書にどう書いてあったとしても、相続財産のうち12分の1は隠し子に渡さなければならないということです。
事業経営者の相続では自社株の評価が意外な高値になりがちですから、12分の1といえども大きな額になりかねません。
これを隠し子に相続させるためには、場合によっては家族が住んでいる自宅を失ったり、事業に必要な資産や土地などを後継者がきちんと承継できなくなったりという事態も発生します。